メッセージTシャツ


外国人、特に欧米人にとって「漢字」はビジュアル的にクールで格好いい、というイメージを持っているという話は良く聞く話である。確かに、一文字という限られたスペースの中に、無数の線が入り乱れている様は「文字」という先入観がなければ、幾何学的な模様と言っても過言ではないだろう。

漢字には当然のことながら読み方と意味がある。例えば、ある外国人がクールだと思っている漢字「欝」をプリントしたTシャツを着ていても、読みと意味が分かる我々日本人にとってみれば、「無いわー」と思うことだろう。しかし逆もまた然りで、我々日本人がクールだと思っている英語、または英単語などをプリントしたTシャツを着ていた場合、外国人の方も「無いわー」と思われることもあるわけである。

今から8年前、24歳の時、当時の貯金をすべて叩き、ニュージーランドの北島と南島を1ヶ月掛けて1周していた時のこと。

 

当時の私はLOWRIDERというブランドの服が好きだった。当然、ニュージーランドにもこのブランドの服をいくつか持っていった。その中に、フロントの部分に「MASTER」とデカデカと書かれたノースリーブのメッセージTシャツがあった。ニュージーランドに滞在していた期間が夏だったということもあり、滞在中はこのノースリーブをよく着用していた。

アクティビティ大国と言われるニュージーランド、しかも夏という季節、私は様々な場所で様々なアクティビティを体験した。シーカヤックに氷河ハイク、地上124mからのバンジージャンプや遊覧飛行など、どれも初体験のものばかりだ。

そんなアクティビティ三昧な1ヶ月間の滞在も、3分の2を過ぎた頃だろうか、私は南島の北部「カイコウラ」という町に滞在していた。この町はホエールウォッチングで有名な町。テレビ等では何回か観たことのある「ブリーチング」と言われるクジラのジャンプ、それを生で観たいと思った私は、滞在中にホエールウォッチングツアーに申し込んだのだった。

カイコウラで観たイルカの群れの写真

申し込んだ翌日、意気揚々と港の乗船場へ向かった。さすがは人気のアクティビティ、乗船場にはたくさんの人が乗船時間を待っていた。その待ち時間に、何人かの外国の方に声をかけられたが、全く英語が喋れなかった私は、「Ah~ Ha…」とか「I see…」、時に「I’m japanese SAMURAI!」などと返し、その場を何とかやり過ごした。

乗船時間になり、もうすぐ生でブリーチングが観れる、と私の気分は昂っていた。逸る心を押し殺し、ボーディングパスを手に乗船したその時だった。

甲板で出迎えてくれていた船長以下船員たちが、私を見るなり一斉に合掌しながらお辞儀をしだしたのである。全く分けがわからなかった私は、とりあえず、彼らに手を合わせお辞儀を仕返した。すると、また彼らがお辞儀をするのである。それが2,3回続いた。困り果てた私は、その恥ずかしさのあまり半べそを掻きながら「Why~?Why~?」と尋ねてみた。すると彼らは、私の胸の辺りを指しこう言ったのだった。

「Your Master! Kung fu Master? Karate Master? Ha-ha-ha!」

恐る恐る自分の胸の辺りを覗き込むと、デカデカと書かれた「MASTER」の文字。そう、私はあのノースリーブのメッセージTシャツを着用していたのである。とりあえず、その場は「Yes!Yes!」と答え、「アターッ!」などと言いながら、ブルース・リーのような動きをしてその場を凌ぎ、そそくさと逃げるように船内へ駆け込んだのだった。

ほどなくして船は無事出港し、クジラの居るポイントへ到着。クジラのブリーチングを生で観られたどころか、船に並走してついてくるイルカの群れも観ることができた。ホエールウォッチング終了後に聞いた話よると、わりとすんなりクジラの群れのポイント分かったり、イルカが突然現れて並走しだしたりと、この日は色々と運が良かったらしく、私の人生にとっても、印象深い一日になった。しかし同時に、国内外問わずメッセージTシャツを着用するのは控えよう、と誓いを立てた日にもなったのである。

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